昨日夜寝る前に、貴様に禁止事項みっつ、と寝言のように呟いて、
「一、ひとりで生きてきたような顔をするな。二、ひとりで生きているような顔をするな。三、ひとりで生きるな。のみっつ」と言い残し夢の島に旅立った千堂の意図は、沢村には大体予想が付いた。
先日雪のような雨が降り注ぐ日、千堂と沢村が二人で降りていた駅の階段で、二人の前を駆け足で降りていく女子大生が、雨の水に足を滑らせて盛大に滑って転んだときの話である。
千堂は半歩後ろを歩く沢村に何やら話し込んでいて、(どうせろくな話ではない。虫歯の多い友達の歯が欠けたんだかなんだか、煎餅を食べただけで、 そんな類いの)目の前の惨状に気が付いていなかった。なんとなく視界の端で揺れていた髪の毛と、ちょっとした悲鳴ではっと前に向き直った千堂が助けに走ったのは、女子大生が尻もちを着いた後だった。
「おおお!、 大丈夫かいな、お姉さん」と声を掛けて起こしてやると女の方は恥ずかしいやらありがたいやら申し訳ないやらの言葉を千堂に返して、そうこうする間に電車は到着、一同乗り込んだ。
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「お前、気付いてたやろ、姉ちゃん転びそうになんの」
そう恨みがましく口にする千堂は、さも女子大生が転んだのは沢村が悪いかのような目を向ける。
「なんで俺が見ず知らずの女助けなきゃなんないんだよ」
それを聞いた千堂はあからさまに眉を寄せて「アカン、 そうゆうの。 お前」と
呆れて横を向いた。
「何が。なんで」
「もっと余裕を持って、な。人が困ってたら助けな」
「ばかじゃねえの」
馬鹿はお前や、と千堂は軽く沢村の頭を叩いて、「じゃあお前、お前のよう知ってるワイが電車で痴漢におうたら助けんのか?」
「助けるよ」
「・・・寒い」
どあほ、千堂は電車の窓の外を見た。沢村は、なんで? なに照れてんの?と口の端をつり上げて、反論した気に唇を尖らせる千堂の、さ迷う視線を追っていた。
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