久方ぶりの空、新鮮な空気をいっぱいに吸い込んで伸びをする。
手荷物が少ないことで自由に伸ばすことのできる腕に、人の計らいの暖かさを感じて自然と笑顔になった。
空港を出てしばらく歩くと、行き交う人に紛れる、いや紛れていない友人の顔が、
ヴォルグの目に映った。「・・・リューヘイ?」 名前を呟いた瞬間、全速力で走り、
飛ぶように抱きついた。
「っ・・・」
「WAAAAAAA-! 久しぶり!!!会いたかっターー!!!
迎えに来てくれるとは聞いてたケド」
慣れたという顔で微動だにせず沢村はそれを受け、再会を喜ぶ挨拶を一方的に
浴びせられるのを耐え切り、やっと自分の物になった発言権を冷静に処理する。
「・・・あいつの練習終わるのが夜だから、先にお前がこっち着くだろうからって」
「ウン、ありがとう!たくさん、話したいコトあるよ」
「乗れよ」
「ウン」
「荷物・・・それだけか?」
沢村はヴォルグを上から下まで一通り眺めると、何泊かすると聞いていたにしては軽装備である外人に違和感を覚えた。
「大きいのは千堂の住所宛てに送れって。多分モウ着いてる」
「ふうん」
ヘルメットを手渡して、沢村は前にまたがると、ヴォルグが乗ったのを確認し、
エンジンをかける。澄んだ風が沢村とヴォルグの耳の横を過ぎていった。
_
「スズシイ〜」
「・・・」
「ドウ?調子は」
「ぼちぼちだよ」
「そう、ボチボチね」
「・・・トレーナーやることになったんだよ」
「ええホント!?すごいなあ、 リューヘイは怖い顔やめればね、
すぐ選手来るはず」
「・・・色んな奴に同じこと言われるよ」
「あの、センセイ?には言ったの?ネケツ、先生」
「・・・あ?」
「ネケツセンセイ」
「先生?」
「ウン」
「ああ、・・・河辺先生か。言ったよ。喜んでた」
「そう・・・ステキだね」
「千堂が変な呼び方教えたのか。なんだ、ネケツって」
「ワカンナイ・・・千堂早口だし、、」
「・・・まあ、良い。後で聞く」
「リューヘイは楽しい?今、どう?」
「・・・まあ、普通だよ。今は、普通に、 ・・・」
「そう・・・、良かった」
「植物」
「エ?」
「植物を、育ててる」
「え、そうなの?どんな?」
「観葉植物・・・」
「へええええ」
「毎日、水を やる」
「育つ?」
「よくわからない」
「じゃあ、種、買いに行こう後で」
「なんの」
「植物の、タネ」
「・・・ああ、うん」
「それで、次ボクが日本に来るまで、毎日水をあげて、芽が出たら、報告」
「どうやって」
「手紙で。写真もイッショに」
「・・・わかった。・・・、手紙と言えば、」
「なに?」
「お前、字、ひらがな、すごく下手だな。年始のあの手紙、
ほとんど読めなかった」
「・・・リューヘイ、もうチョット、別の言い方・・・ないの、、キズつく」
「字下手言われたくらいで傷つくんじゃねえようっとおしい」
「それじゃ千堂のせいね。字教えてくれたの千堂だもの」
「いや、千堂の字が下手なことくらい最初っから分かり切ったことだろ。
そんな奴から字を教わるお前が悪いね」
「リューヘーええ」
「うるせえ」
「ウウ」
「・・・俺が、教えてやるよ。あいつよりは、上手いよ」
「・・・ほんと?」
「うん」
「アリガトウ!」
「・・・どういたしまして」
「リューヘイはやさしくなったね。僕は全然、変われないよ」
「・・・なにが」
「ウウンなんでもない」
「・・・あいつのチワワは俺のチワワ」
「・・・へ?チワワ?」
「・・・この間、テレビでやってた、日本じゃなくて、どっかの、ドラマ。
多分アメリカの。その中のばあさんが、言ってた」
「・・・あ、もしかしてそれ、タバサ?タバサでしょ、女の子のおばあちゃんの。
僕ソレ観た。たまたまだけど。まさかリューヘイが観てるとは思わなかった」
「観てるんじゃねえよ、たまたま、観かけただけだよ」
「そうなの」
「うん、それで、お前って、千堂の、チワワだろ。」
「そうなの?ウレシイ」
「あいつの大事なものは、俺も」
「ウン」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「フフフ」
「・・・・・・」
「ありがとう、リューヘイ」
「・・・・・・」
「僕も、チワワだよ、リューヘイが。トオッテモ、だいじ」
「・・・チワワとか嫌なんだけど」
「うわあ、言ウネ」
「昨日、あいつ相当浮かれてたから、すげえ飲むと思うけど、途中で止めるの
手伝え。うるせえだろうし、あいつのばあちゃんに後で言われるの俺なんだよ」
「ハハハ、そうだね、気をつけヨウ。でも今日はたくさん遊ぼう!僕ね、
あっちのお菓子とか、いっぱい買って来たヨ!すごい色のキャンディーとかグミ、、、――――――
Close.