夕飯の仕度を始めた矢先、鳴らされた家のベルに玄関を開けると、宅急便です.はんこもらえますか? 笑顔と差し出された紙に言われるがままにサインした。後ろからふたりがけで運び込まれる、よく見ればソファだった。白い皮で横に長く、大の男が余裕で座れる程の、、ちょっと待った.沢村は先ほどの笑顔に向けて、「おれ こんなの買った覚えねえけど」言うとすかさず返ってきた返事に棒立ちになった。

「あ、千堂武士様から、になってます」


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「来たかソファ」

玄関を開けると入るなり、小走りの助走をつけ、リビングに捨て置かれたソファへダイブする。白い皮の表面にうつ伏せ、頬擦りしながら「これ最強や」機嫌良さげに呟いた。

「あのなお前」

この際 いつの間にうちの住所押さえたとかはどうでも良いけど、ソファが欲しいのも構わねえよ、でもな

「なんで俺の家に送ってくんだよ」

沢村の問いに千堂はソファから顔を上げて

「ここんちにソファ欲しかったからや」

当然のような顔をする。返事に困っていると、そこから立ち上がって冷蔵庫の前に行き、また当然のように冷凍室を開けた。

「チョコチップアイスみっけ」

沢村はスプーンを探してうろうろする千堂をしばらく眺めて「うちになんでソファがいんの」台所の引き出しを開ける。

「ここんちベッド以外に柔らかいとこないやろ」

スプーンを受け取り満足そうにまたソファへ走る。どすんと体育座りし直して、アイスの蓋を開き掛けた。

「ふうん」

白くて柔らかい背もたれに手をついて、沢村は千堂の座るすぐ後ろ、跳ねっ返る毛先から5センチあけて屈む。

「じゃベッド以外の柔らかいとこでなにすんの」

茶色いくせ毛へ侵入する指先に眉を寄せ、千堂は沢村の脳天めがけて平手を振り下ろした。


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「悪口て餓鬼かい。そないなヤツ好きに言わしといたらえーねん」

「ちげえんだよ、俺と一緒にいるから、言われたんだよ」

「なにを」

「お前が気違いだって言われてんだよ」

「しゃーからええやんか好きに言わせとけば」

「俺は慣れてるけど」

「お前まさかそんな小さいこと気にしてるんか」

「小さくねえよ」

「小さいわ」

「俺は、一生、この先、それを言われ続けて生きて行くってのに気が付いたんだよ。それで、俺が言われるっていうことは、お前もだよ。こんだけ経って、もう良く思い出せねえような事を、お前まで言われんだよ」

「馬鹿には言わせとけ」

「気にする癖に何言ってんだよ」

「ア?」

「馬鹿はお前だっつってんだよ」

「んだとコラ」

「だからそういうの全部から、お前守ってやれるくらいの力が欲しいんだよ ずっと前からさ」

「守ってもらわんでも、自分の身一つくらい守れんわい」

「やっぱ馬鹿だよお前」

「何が」

「お前甘いよ」

「そのくらいの覚悟もなしに わいがお前のこと愛したと思ったか 思ってんなら今すぐここで死ね」


 言い捨て、千堂はソファを立った。勢い良く閉められた扉に、沢村はソファが自分の方へ傾いた気がした。


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着信を報せる光に気が付く。携帯電話を拾い上げて、ソファの背もたれに寄り掛かる。通話ボタンを押すと、しばらく流れた無音を破る一言目に耳をすませた。


「・・・・・・その」

「どうした」

「こないだは」

「良いよ」

「なんでや」

「俺も悪かったよ」

「・・・明日休みや」

「分かった」


電源ボタンを押すと、沢村はソファに座る。ため息と一緒に窓越しに知らない家の灯りが光った。


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「足元でギー、ギー、て音すんねん、何かと思たらな、こんなちっさい、仔猫やねん」

「ふうん、」

「んでな、その頃はオトンもまだおったから、ま なんでその日オトンがうちにおったのかは流石に思い出せへんけど、いっそいで猫抱えて家帰ってん」

「うん」

「ワイ怒られんの怖くて なんやそないな猫連れて て絶対怒られるー思てそっと家入ったら普通に見つかって」

「うん」

「したらオトン、死にかけの仔猫見て顔大真面目んなって、真夏でクソ暑い中走って近所のペットショップ行って仔猫用の哺乳瓶とミルク買って来た」

「そっくりだなお前ら」

「それどういう意味やねん。 ‥ワイその間ずっと水飲まして、オトンとふたりして必死になって、けど次の日、猫死んどった」

「・・・・」

「そん時、ワイ少し泣いたかもしれん。 オトンが、 命助けるちゅーんは並大抵なことやないねん。ワイらはコイツ助けられへんかった事を、ずっと忘れたらあかん。 て」

「・・・・」

「自分の知ってるとこに、6月になると、紫陽花がきれいなとこあんねんて、そこ埋めるゆうて。 」

「・・・・なあ」


「・・・ん」

「その場所おぼえてるのか」

「四、五歳の頃の話やで。さすがに」

「俺もおぼえておく」

「あ?」

「俺もそれ覚えておくよ」


そっとソファの斜め下を見詰める千堂の頬をつねって「なんか飲む?」聞くと やめろ、と指をふりほどかれる。「コーヒー」牛乳と7対3な、あ、牛乳が7やで! 笑った千堂の元に、やがて砂糖入りのカフェオレが届く。






























                        







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腰掛け、一周年 そのほか感謝の心‘100207