どこ行くん? 「どこにも」

紺の空にオレンジにひかる街灯をひとつふたつみっつ...数えたくらいから
スピードが上がった。高くて遠いものだけがゆっくり動く。紺色の、空の中の
星とか、月とかもそれに含まれる。 千堂は欠伸をしながら「このひとさらい」と運転手の背中に毒付いた。


ヘルメットを投げつけられて、ぼけた視界に沢村の足だけ見つけると、千堂は本能で嫌な予感を感じとった。アレの後でそれなりに気分良く眠っていたのに急に起こされたということは・・・こういう時は大概、「出かけるぞ」


「どこ行くん?」

「どこにも」


ゆら、と上半身だけ起こして胡座をかいて頭もかいた。 パンツどっかいった そこにあるだろ 事務的な会話を繰り返しながらとっくに出かける準備のできている沢村に、「やっぱりお前ちょっと勝手やないか」と最もらしい発言をしてみても、「いつものお前の方が百倍勝手だから安心しろ」


何が安心なのか、 あ、わかった。自分らの「安心」はお互いの存在によって破壊されている訳やな。ブウンとバイクのエンジンが停まる音を聞いて千堂は辺りを見回した。「ここどこや」「あの電話ボックス」「まさか」「「心霊スポット」」
バイクを降り始める沢村に千堂はすかさず呼び止める。


「ちょ ちょっとお前」

「なに」

「まさかここ来るためにわいのこと起こしたんとちゃうよな?」

「起こした」


バカタレ…と頭痛を覚えながらも千堂はバイクから降りる。街灯で申し訳程度に照らされている地面とすぐ脇の白いガードレールを一度交互に見て、すぐに沢村の後を追った。


一台、 何秒かあいて二台…と目の前を疾走していく車を、ガードレールに寄り掛かりながら数える。時計は持っていないので、今が何時なのか、どのくらいこうしているのかもわからない。考えるに、自分のトランクスが失踪してからジェットコースター乗られてそれから寝て、起こされた訳だから今は尋常では
ない時間のはずだ。
たまに膝の裏くらいの位置に頭がある、 レールを挟んで向こう側 あっち向いて座っている沢村のことを考える。明日の仕事どうすんねん、と聞こうと思ったがやめた。 明日絶対起きられない それは自分も同じだった。
しかしなんとなく、明日なんて来ないような気がする、こんなに不毛に三台目が通り過ぎるのを数えていても、次の日の朝はまだ来ない。寝てたらすぐなのに、と千堂は思った。四台目が通り過ぎた。


「別に幽霊見にきたわけじゃねえんだよ」

「それはわかっとった」


場所なんてどこでも良かったとひとさらい事件の犯人は供述した。まあ出てくれりゃあ申し分なかったけど、 幽霊


そこまで沢村の台詞を背中で聞いてから、千堂は半回転して沢村の左手すぐ脇に両足を着く。雑草が曲がる音が消えるくらいにそこへ座った。 沢村は一度千堂を横目で見て、左手を伸ばす。そのまま茶色い髪をぐしゃぐしゃなでてから、「帰る?」と聞いた。


それで結局明日は酷い睡眠不足に悩まされるだろうけど、千堂は思った   やっぱりどこへも行きたくない。沢村の左肩を一回噛んで「帰る」と答えた。
けれどいつも帰りたくはなかった。






























                        







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