舌を突っ込むとさっそく逆三角の犬歯にあたり、なにかがおもしろくて思わず
笑った。口の中で“Bu”と発音すると、目の前の綴じられていた瞼がキッと開いて、さっそく堅い拳が飛んでくる。
「なに笑っとんねん!」
「いや…お前、犬歯とんがり過ぎじゃねえ?」
間一髪で頭を退き千堂の拳を避ける。そのままフローリングに座っていた足を立て、顔赤くね?と更にからかいながら、引っ掻くように動かされた爪も避けた。「舌噛んだらどーすんだよ野生児」言いながらテーブル辺りまで逃げる。「ひきこもり!」と返され「筋●マン」と言えば「フラ●ケン!」 、
「どうも。光栄です」と口の端をつり上げる。「こっちこそ光栄です!」と
関西特有の語尾上がりで怒鳴り、千堂は勢いよくそっぽを向いた。
「しらけた。どっちらけや」
「悪かったよ」
極限まで細められた黒目を向けて来たが、すぐに視線は床に落ちた。
「のどかわいた」と呟いた千堂に向かって、「じゃあそこに川あるから飛び込んで来いよ。ちょうど雨で増水してるだろうし」 言い終わる前におねえちゃんが
笑う表紙の、、、近くに転がっていた雑誌が飛んでくる。それは耳をかすって
後ろのテーブルに突っ込んだ。
「なにお前生理?」
「帰る」
立ち上がる千堂に、待て待てと声を掛ける。片腕を引っ張り、
とりあえず座らせた。
「お前大丈夫?」
「キてる」
「じゃあやめれば?」
ボクシング 、発した途端、本当に首を締められそうになった。なんとか首に
掛けられた千堂の両手を引き剥がし、「冗談だろ」と呟く。
「冗談?ちっともセンスないやん」
お前のことからかうだけの能無しでもねえぞ、俺は。
「さよか。じゃ帰るから。送れ」
発言を一蹴されたので、黙って千堂の言う通り二人分の傘を出した。
数日後、手紙が届く。
疲労困憊で玄関を開け、靴を脱ぐため座ると、視線の隅に放られた縦長の
封筒に気が付いた。拾い裏返すと「沢村竜平」の文字。あいつに住所なんて
教えたっけか、なんにしても手紙て、なんやあいつ、きっしょいなあ、、、 半笑いを浮かべながらそれを片手に私室へ向かう。
“ひとつ貫こうとすると絶対なんか犠牲にしなきゃいけないものあると思う。
だが俺が思うに、お前ならぜんぶ持っていられる。
だから次の試合終わるまで、壁に穴あけんじゃねえぞ”
手紙はしばらく眺めてから封筒ごとぐしゃぐしゃに丸めて棄てた。
しかしその三秒後、 長いため息、…ゴミ箱をひっくり返した。
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