- なにかがしょうがなく怖い夜



















―だから疲れてた方が良く眠れていーです。休みの日とか、持て余しちゃって。
すごく寝つき悪くなる気がします」

しかも最近のじめじめったらないですよね、身体にまとわりつきまくって 寝かせねえええ て言ってるような感じで、

「最近の人って、心は疲れてるのに、身体は疲れないような仕事多いでしょ?
デスクワークとかそれですよ。だから夜眠れなくなるんですかね。だから心と身体がおんなじように疲れる仕事って良いんじゃないかって。あ、今の受け売りなんですけど。(笑)その点俺は恵まれてるかもですね。真田さんはどうですか?」


 黒い部屋の中、何度も右を見て、何度も左を向く。枕元の時計の音がやけにうるさい。寝ようと目を閉じると迫ってくる、まるで映画のフィルムのように順番に、瞼の裏が映し出す。親とのケンカ、謝れなかった言葉の暴力、負け試合、孤独、存在のありか、ぎりぎりの夢、空腹、喉の渇き、湿気と暑さ、暑さ、暑さ。


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『真田さん、まだ起きてますか』

「起きてるよ」

『勉強中でした?』

「まあそんなとこだね」

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 パソコンの文字が点滅している。のではなく、目の疲れにより一行目と二行目がちかちかと歪んで見えただけだった。時計が1時半を過ぎたのを確認し、視線をデスクトップからはずすと、質の悪い目眩が脳を揺らした。冷房の音だけが、天井に響く。 部屋に突如それは鳴った。携帯電話のバイブレーションが机伝いに驚く程大きな音を立てる。はっとして音源に視線を向けた。着信を知らせる光が室内に拡散していた。

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「今から行って良いですか」

『今から?』

「ダメですか」

『良いよ。バイクか』

「いや走って」

『唐沢、…』

「ははは」

『じゃあ、』

_

「ボクシングが本当にやるべき事だったのかっていう悩みは一生つきまとうのかな。今は実際ボクシングで飯食えてないですからあれですけど、例えば俺がボクシングで食えるようになったとして。でもボクサーが俺の天職だ、なんて、言える日来んのかな。あ、ほら、千堂武士さんとか、あの辺は確実に天職でしょうね。“生粋の”てヤツですよ。あんな風になれたら、でもまああーゆう人は、生まれつきなんか持ってるんでしょうね。俺みたいなのとは違う、なんかすごくでっかいものを」


 目を開ける。眠いことには眠い。起き上がるのは億劫だから、眠れない夜の暇を潰す気力もわき起こらない。黒い天井ばかり見詰めているのが嫌で、目を瞑りたくても、目は瞑りたくなかった。悪循環だと思った。 ふとした苦し紛れの寝返り、その視線の先に、放置された携帯電話を見つけた。開いた後の光線をまともに喰らって、頭が少し冴える。発信履歴の三番目を、何も考えずに押した。

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「まさかほんとに来るなんて!」

「だってそうでもしないと本当に走って来かねないからお前は」

「車どことめたんです?」

「そこ」

「真田さん、…」

「あがるよ」

「どーぞ」

「相変わらず女の気配がまったくしないな」

「…ドーモ」


―僕も今はずっとパソコンの前なのは当たってるな。大学では実習もあるけど。
確かに、ローテーションで日が過ぎていくような感覚には陥る。自分がどこにいるのか分からなくなるよ。具体的な夢はあるはずなのに、たまにそれを見失うのは、そういうのが原因なのかもしれないな」

でも少なからず、僕にはお前がどこにいるのか分かるよ。 そうやって今何がしんどいのかちゃんと教えてくれればね。

「お前がその何か大きなものを、持ってないと決めつけるのは、きっとまだ早い。」






























                        







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