一度目は無言で揺さぶられた肩、二度目は腹への軽い衝撃で沢村は目を開けた。
暗い部屋の中、おかしな時間に鳴ったアラームを止めた千堂が、ゆらりと意識不明のまま起き上がり、沢村を揺すったが、力尽きて沢村の腹に頭を落とした。
目線だけ降ろして「おい、」と声を掛けたが反応はない。千堂をずり降ろし沢村は起き上がると、周りに散乱した大晦日の産物にうんざりした。どうせ片付けるのは自分だと覚悟しながら、ゴツンと畳に頭を落とされた千堂をまたいだ。
ハンガーに掛けられた上着をとって、飲み食い散らかしたものを蹴りながら千堂の傍にしゃがむ。
「なあ」
「・・・・・・」
「日の出」
「・・・・・・ん」
「見に行くんじゃないの」
「・・・・・・む」
起きる気配のない千堂は、沢村の声に眉間を寄せただけだった。
「お前が見に行くって言ったんじゃねえかよ、」「・・・」「おい、」「・・・」「なあ」
「・・・行く」
「じゃあ起きろ」
起き上がり大あくびと伸び、千堂は未だ三分の一しか開かない目で床を見詰めている。沢村は「がんばれ」と肩を叩いてやって、洋服箪笥を開ける。
「どれ着んの」「・・・いつもの」「お前、あれじゃ絶対に寒いと思うぞ俺は」「・・・適当に」「じゃこれ」
ダウンのジャンパーを投げると、千堂はのろのろと腕を通し始める。「夜が明けちまうよ」 沢村は言いながら千堂の着替えを手伝った。
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真っ黒な空の下、並ぶオレンジの街灯をいくつも横切る。周囲の車も居眠りしているように、道路上をゆらゆら揺れた。背中の千堂は沢村の腹部へ腕を回し掴んだまま、背中に頭を落としていた。
「なあ、」
「・・・・・・」
「寝てんの」
「・・・・・・」
「・・・寝てても良いけどさ、」
「・・・・・ん」
「ちゃんと捕まってろよ」
「・・・・・おう」
それだけの答えを聞くと、沢村は満足したらしかった。千堂は少しだけ顔を上げて、沢村の襟周りのフェイクファーに鼻先を埋めて目を閉じる。
「・・・なんでファー食ってんの」
「・・・・・食ってへん」
「じゃなにしてんの」
「・・・・・あったまってんのや」
「好きにしろ」
やがて街灯が光る頻度が減る。やがてうねる山を登る。
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山道をいくらか登り、道が拓けた。バイクを止めて、ヘルメットを外した。千堂の分も受け取りハンドルに引っ掻ける。目下少し先、黒い海が揺れた。
沢村はバイクを降りて、サドルに寄り掛かる。後ろに座ったままの千堂は、やっと目を覚まし、正面の真っ黒い海を見詰めた。薄く開いた口から、白い息が流れ出た。
そのうちに、初めての朝を迎える光がこちらへ真っ直ぐ延びてきて、千堂の目の中に溜まっていった。千堂は正面を見つめたまま言った。
「また、 一緒に。 な」
「うん」
答えながら、沢村はバイクの上の手を握る。
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