「ええやん 愛あれば」
相手サイテーでも。
一瞬凍り付くその場。楽しい同窓会が瞬時に北極だ。テーブルに並べられている料理に視線を落として呟いた一言に、周囲が固まっているなど思いもせず、千堂は顔を上げた。
しばらくして誰かが発した一言。―やっぱ元チャンプは言うこと違うなー!
一同、「(笑)」。なんか腹立った。・・・なんか、帰りたくなってきた。自分にとってココ、こんなにアウェーだったろか。いつものように騒げない。帰る。決意して千堂は席を立った。
“付き合ってた女に騙されて、20万ふんだくられた。”
―ええやん別に。好きやったんなら。
女いなくなって泣く理由が、金とられた悔し涙より、女いなくなった虚無・せきばく? その方が。ゆっても誰にも伝わらなさそうだ。無言が正解か。
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単に優しいだけの男が好きなら俺に用はないはずだ、沢村は思った。
商店街は夜も明るい。うっとおしい。早歩きはしない。別に急いでない。
自分で自分をチキンレースに縺れ込ませるのが大好きなド変態で、常にハングリー、それを隠して、喉も渇かないふりをするのが最近の自分のクセだ。それでなんとか真っ当に見せている。自覚している。どうでもいい顔は表面だけで、商店街に上げられている提灯、祭り終わったんだから早く外せと思う。
脳の考えるキャパシティばかり膨れ上がり、“百考は一行に如かず”がどうしても出来ない。最近特に出来ない。
そういえば秋祭りは日取りに合わせて仕事をぶち込んだ。花火だって観ていなければうるさいだけだ。
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大阪のジムに来ると、リングの脇にしゃがんで耳を傾ける。右があーだ、左がこーだ、
柳岡トレーナーの目はいつもキラキラしている。そういうところはガキみたいだ、沢村は思った。でもそのガキみたいな目が嫌いじゃない。
“夢”、それ自体の具現のような。“百行あるのみ”、多分千堂はこんな言葉をつくる一番初めの男。誰もが信じている。誰もが千堂のようになりたくて、努力して、その才能を羨んで、妬んで、恨んで、欲しがっている。柳岡トレーナーも半分くらいそういう気持ちを持っているんだろうか。
斜め下から見上げても、本心は眼鏡の奥にしまわれたままだ。
それがわかれば少しは親近感が持てる。けれどそんな素振りは見せたことがなかった。
大人とはみんなこういうものだろうか。単にこの人が深いのか?
「沢村くんは今夜も千堂んち行くんか」
「はい」
「子守り御苦労さんやな」
「わいが泊めたってんのになんで子守りやねん!」
「前向けや!」
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あの頃は家族の共同体の中で俺は二番目に偉かった。(人刺すまでの話)子供の頃の方がちゃんと母親を庇ったり、他にも大きな力を持っていた。今よりもずっと人間らしかった。
家族もない、千堂しかいない。大人世間は「甘えるな」の応酬。自分が今どこにいるのか、全然、わからない。繰り返す街灯の下、家には帰れるが、やっぱり迷子だった。
「けつ、いた」
「・・・まじで」
「・・・、ずっとここ座ってたから」
「ああ、」
「なんやねん」
「してねえからおかしいなと」
「しね」
「お前同窓会どうした」
「抜けて来た」
「は?」
誰とも話合わへんから、。千堂はアパートの廊下を睨んでいた。
努力無し、天賦の才、千堂がそんなんで生きている訳がない。取り巻く人間の何人が、そう勘違いしていないかは分からない。
人並みならぬ努力、人一倍悔しいと奥歯を噛んでいる。
だからこいつの価値はずっとずっと変わらない。
けれどそれは誰にも分からなくて良い。
この世でふたりだけが知っていれば。
「お前んちで飲み直そおもて」
「酒ねえよ」
「今から買い行くねん」
「はあ」
二時間でも三時間でも夕日が月に変わるまで、いくらでも千堂は地べたに座って、自分を待っていた。
千堂は何も言わず腕を伸ばす。沢村の指をつかんだ。沢村も何も言わず、黙って歩き出した。
そんなたったひとつで安心して、自分たちは暮らして行くようだ。
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