ずっと僕のトランクを睨んでいる彼を見て困ってしまった。
さっきから何を言ってもちっとも聞いていない風で、ほんとうにどうしようと思う。
あんまり、 どうでもいいのかな、と思う 僕の話は。たくさんの人が横を
通り過ぎる。このまま、僕たちだけになってしまえば良いなと、ぼんやり思っ
た。「まだボクシングやるんか」 ウン、僕は答えた。
もし僕たちがヘテロで、ボクサーじゃなかったら、もう少しちがった世界があった
かな。でもそれはほんとうの僕らではない。今の僕らはリングの中に生きて
いる、それ以外はたぶん間違いだ。
もうすれ違うことしかないだろう、 友人を前にして、
次に宇宙を飛んで次の次くらいの世界になったら、僕がアザラシで、
千堂がイルカとかだったらいいね、 だめだ、なんにも思いつかない。
そんな人間の感情のために「僕ら、」を犠牲にする僕たちに、げんめつしたくは
なかった。だからふたりとも意地を張った。「ううん、もう行くね」
ほんとうはずっと君にみつめられているトランクに少し嫉妬してた。
そんな思惑を、いつか懐かしく思う日も来るだろう。
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