「ほんまに彼女おらへんのお?傷フェチとかほっとかんと思うなあ」
「これ、そのうち消えるよ」
「なあなあほんならさあ、なんであたしさそったの?」
「関西弁が良いんだよ」
「関西弁フェチ?関西弁なんか他にもたくさんおるやんかあ」
「恋人が。関西弁。会ってくれねえんだよ試合前で」
「なに試合ってえ。バレーボールとか?女子高生でも相手なんかあ?」
「いや。男。成人済みの。ボクサー」
次の日の置き手紙はキッチン台の上にあった。
“竜平くんかっこええのに変なシュミあかん。オトコやめたらまた連絡してえな。
―関西弁フェチの竜平くんへ”
「ぶ、っ、は」
「なんだよ」
涙目で笑いを堪える千堂に、沢村はぶっきらぼうに返した。
あの女、今のご時世、携帯電話、タッチパネルの普及を尻目に、置き手紙なんぞ古風な手をやらかしてくれたものだ。単純な嫌がらせだ。真っ先に千堂に見つけさせて揉めるのを期待したのだろうが、生憎そんな小さな逆襲が効く相手ではなかった。
そもそもキッチン台じゃあ沢村が見つける方が早いだろうに。どちらにせよ、
頭が空だった。
「なんや、ちっと会わん間に、真っ当な暮らししとるやんか」
「まあな」
どれを真っ当と呼ぶのか、沢村にはよくわからなかったが、女と遊んでるのを真っ当だと言うなら、きっとそうなのだろう。
「これ、どこのだれやねん」
「しらねえよそんなの」
「かわいい?」
「そこそこ」
「ほなら、ほれ、連絡先教えー」
「馬鹿じゃねえの」
お プライバシーはちゃんと守るんやな 真っ当真っ当、千堂は目を手で押さえながら嬉しそうに言った。
「ええ度胸しとんのお、この女。気に入ったわ」
「じゃお前付き合うか」
「そらあかん、せっかくの真っ当な竜平くんの彼女とったら悪いもーん」
「むかつくなその言い方」
沢村はペットボトルにそのまま口をつけて呟く。相変わらず自分の家かのようにソファにひっくり返る千堂を睨みつけた。
「まあ本当に縁があるなら、そのうちまたどこかで会うだろ」
「なんや、長いスパンでモノ考えられるようになったのー」
エライエライ、なにがそんなに可笑しいのか、けらけら笑い転げる千堂にすこし 仕返ししてやろうと、沢村はソファの背に周り、そのくせ毛を掴む。
「お前と終わったときの保険だよ」
後ろから呟いてやる。ぴたりと笑いが止んだ。千堂の尖った視線が飛んで来る。
「アッホ!なんや自分だけ卑怯な手え使いよって!」
「じゃあお前だって保険かければ良いだろ」
「なんやねん保険て!そんなもんいらんわい!」
「すぐ見つかるんだろ」
「すぐ見つかるわドアホ!」
アホ、アホはお前だよ、ドアホ、ドアホもお前、怒鳴り返される。
ひとまずそこで終息する。同時に菓子の袋が開く音がした。立ち上がった沢村は横目でソファの上を伺う。
千堂が嬉しそうなのは、決して大好きな菓子のためだけではないように見えた。
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