時間が時間だから恐らく、ここには誰もいないと勘繰っているんだろうが。
、気になる。
見えていたのは天井、しかしたった今眼鏡のオッサンに入れ変わった。
いつもと別段変わらない顔でしゃあしゃあと、ソファの上 仰向けに自分を
ひっくり返した。左手は背もたれについて、右手はネクタイを緩める。真正面のあまりの恥ずかしさに背もたれの方へ身体の比重を変える。傾けたのと逆の背中はガラ空きで、 じわじわと顔に血がのぼってくる、やっぱり気になった。自分はついにそのままの体勢で声に出した。
「おっさん、」
「誰に向かってクチきいとんねん」
「柳岡はん」
「なんや」
「ドア」
開いてんねん、さっきからずっと。
更に背もたれに埋まる。足の感覚が、肘掛けに持ち上げられているせいで
痺れてきた。正直この体勢、めっちゃキツイ… ごちゃごちゃに脳みそで
感想文を書きながら はよ終わらんかなこれ、と思い出した感情には蓋を
する。気分変わりが激しいのは悪いくせだと、一応は自覚しているつもりだ。
おっさんは振り返った、しかし呆れ顔が帰ってきた。
「5センチくらい問題ないやろ」
「ある!」
その隙間5センチからパパラッチされて後々泣くんやぞ!
勢い良く真正面に向き直り怒鳴ったまでは良かったが、眼鏡越しの視線を
直視する自分のせいで、途端にまた血の気が上昇気流に乗った。仕方なく
次の言葉はソファの背もたれに話す。
「明日の一面に“千堂武士、ジムのトレーナーとバツバツ”とかやられたら
どないすんねん」
「お前は海外セレブかいな、」
ないないそんなん、と軽くあしらわれたのが余計に自分の腹の虫を活性化させた。この場合腹減ったー方の虫ではなく、もちろん怒った方のやつだ。
こういう時のオッサンはすごく意地が悪い。聞いてるようで、聞いてない。日曜の新聞読んでる親父とかがそれに相当する(らしい)。しかもコレ、この人、押しの強さは筋金入りときた。けど引き下がるのはご免だから自分でも少し不自然なくらい、食い下がる。
「閉めてこい」
「さっきお前が入るときに閉めんかったのが悪い」
「わいはわるない」
「お前が悪い」
「わいはわるない!」
叫んだ拍子にリーチを見誤って眼鏡へ頭突き、踏んだり蹴ったり具合にオッサンは良い加減ウンザリしたらしく、ため息もそこそこに立ち上がる。眼鏡の無事を確認しながら「じゃあウチにするか」とやっとの譲歩案を出して来た。
そろそろ本当に、両足死ぬ、と思ってたから「よっしゃ!」と起き上がった瞬間、自分ら以外誰もいないはずのドアが勢い良く開いた。
「柳岡さん、星ですーちょい忘れものしてもーて まだ開いてて良かったですわーアレ 武士さんまだおったんですかー」
(・・・)
泡 、吹いた
『ーアレ 武士さんまだおったんですかー』と、いう台詞が何回か頭の中で
繰り返されたのち、自分の思考が完全停止する前に思ったことは、
てゆかさっきから何笑っとんねんこのオッサン。
そっから後の記憶は、今日になっても、さっぱり戻らなかった。
Close.
星は無実です、 たぶん 笑
だいすきなみなさんにちゃっかりささぐ ご退屈さまでした ‘090829