その日はずっと頭の上を、青い魚がぐるぐる円をかきながら泳いでいて、
気になって眠れなかった。
水色に染まった部屋の中を、頭上の電気の傘に
沿って、あっち行ったりこっち行ったり、尾ひれが揺れる度にちょうど左腕の上にある窓のカーテンが、風を孕んで膨らんだ。それが引くのと同時に青い魚も混じって網戸の外へ出る。それから魚の所在が分からなくなった。
続く熱帯夜の一瞬の隙、その日は涼しかった。
玄関のノブが捻られた音で沢村は目を開けた。頭の脇に投げ出していた左腕が無意識に痙攣する。フローリングにひっくり返っている事実に気が付いてベッドの上という認識はただの妄想だったことを知る。玄関で一通りごそごそ
やって、そいつは部屋に入って来た。
「死んだか」
ゴト、と何か重たい物がテーブルに置かれる音と挨拶代わりの憎まれ口を
沢村は視線を動かさず、耳だけで聞いた。そのまま目は天井を眺める。
「死んでねえよ」
さっきの魚は夢か、と今更気がつきつつ、首は動かさず視線だけ声のする方へ向ける。
「ソルティードッグ」
「うん」
さすがにカクテルは作れへんわ、と言って千堂はビニール袋ごと酒の缶を
冷蔵庫に突っ込んだ。
「なんでそないなところで死んどんねん」
「魚」
「は」
魚?と聞き返しながら、千堂は沢村のひっくり返っている横へ座る。
「どこ」
「その辺」
顎で示してまた目を閉じた。昨日の夜まで熱帯夜にうなされていたのが嘘
みたいに、窓からは冷やかな風が忍び込んで来る。
「どないな」
「青いの」
「大きさは?」
「手のひらくらい」
「案外ちっさ」
「うん」
「このくらいなら刺し身にできたんやけどな」
「すげえ飛躍」
鼻で笑うと、千堂は立ち上がって「オマエ腰悪くするで」と沢村の腹を一度
蹴ってからそれを跨ぐ。次に窓へ
「今日の夜は寝苦しくなくてすみそうやな」
千堂は伸びをしながら言った。 あっという間にカーテンも千堂を飲み込んだ。
Close.